三浦弘行九段の
竜王戦出場辞退時の記事があったので、
もう一度見直して見ました。
この事件は2016年末、
将棋の対局中に
隠れてコンピューターを利用したとして
日本将棋連盟より
棋士が出場停止処分を受けたという
過去事例の無い事件。
その後の経緯としては、
第三者委員会による調査で
三浦弘行九段にかけられた疑惑は
事実無根の誤りである。という
結果報告により冤罪の証明。
三浦弘行九段に
棋戦への出場停止という裁定を下した
日本将棋連盟は
谷川会長、島担当理事が辞任。
2月6日には、
佐藤康光九段が連盟新会長に就任
三浦弘行九段も
2月13日の復帰戦が決まりました。
(復帰初戦の対戦相手は羽生さんです。)
三浦九段の活躍を応援しています!
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将棋界は段位制度
(海外の主流ゲームはレーティング制が多い)
勝ち続けるプロだけが
生き残れる世界なのに
誰が、どれくらい強いのか?
といったところは曖昧なままです。
日本人の美徳というか
可視化を進めていない業界は
こういった体制も
多いのではないでしょうか?
(ビリヤード業界は似ていますね)
非公式データですが、
2016年の
上位AI将棋ソフトのレーティングは
トッププロ棋士のレーティングを
大きく超えています。
どのくらいの差があるかというと、
AI将棋ソフトの勝率が97%以上
ほぼ100%というほど。
仮に最強の棋士がいたとしたら?
という仮定と比較した数値です。
2015年10月11日、
情報処理学会はコンピュータ将棋プロジェクトの終了宣言を発表した。情報処理学会は、2010年以降コンピュータ将棋とプロ棋士との対戦を継続してきたが、2015年の時点ですでにコンピュータ将棋の実力はトッププロに追いついておりプロジェクトの目的を達成したとしている。
(一般社団法人 情報処理学会HPより)
原因を調べると日本将棋連盟とは
費用の問題で以前から
仲違いしていたようですね。
ぼくにとって、
将棋を見るというのは
明晰な頭脳勝負の見学
その圧倒的な処理能力を見て
『おぉう』と唸るのが
面白いわけで
考えるのは左脳
イメージは右脳なんて言われますが
将棋棋士の脳って
極端に右脳が使われているんです。
(考えているから左脳!かと思いきや)
処理速度と正確さを求める過程で
圧倒的な情報量を
イメージの上で操作することが
求められるわけです。
さらに少し将棋を覚えると、
プロ棋士の対局は
過去データ(棋譜)や相手の戦術を
研究し尽くした上での戦いということが
わかってきます。
(ハイレベルな駆け引きがあるわけです)
『パソコン』を説明するときに聞く話で、
CPUは脳
メモリは机
HDDは引き出し
なんて聞きますが、
『将棋を指す』というところで考えると
CPUが左脳
メモリは右脳
HDDは記憶
目はキーボードといったところでしょうか。
1990年ころの将棋ソフトは冗談?
というほどの弱さでした。
2000年くらいから
強くなってきて、
2010年になると
ソフトによっては携帯の無料アプリでも
プロ級を誇るようになり、
(ぼくも有段者ですが手も足も出ません)
現在に至ります。
(特に日本でスマホが普及した頃からの
プログラム・ハードウェアの進化が凄まじい)
しかし、
そんな将棋ソフト台頭の時代の中で
思うところがあって
将棋ソフトが指す棋譜を見ていると
ぼくの棋力でも
多少はわかるのかな?
人間っぽくないんですよね。
ほんとうに。
子供の頃、プロ棋士に憧れ
たくさんの対局をみて、
たくさんの棋譜を見続けていると
感じるんですよね。
それがプロ棋士となったら
確信で間違いないでしょうね。
どうしても、
人間には指せない手があるんです。
なんでそれがわかるかって?
無いんですよね、
ストーリーが
そこに至るまでの脈絡が無いんです。
当事者だけの過去の記憶とか
絡み合うような感情とか
複雑な背景とか
格闘技で言うと
人を殴ることに躊躇の全く無い人というか
ビリヤードやダーツだと
勝負が決まる最後の瞬間まで
全く感情変化がない人
もともと三浦九段は
(ファンの間ではみうみうと呼ばれている)
性格も寡黙で真面目を絵に描いたような人。
誰もが認める、
将棋界随一の努力家で
凄まじいまでの研究時間と熱心さを誇る
元々がソフトっぽい打ち筋のトッププロ。
三浦九段は
2013年の電王戦、
人間対コンピューターの将棋決戦において
プロ棋士団の大将として出場。
この日、コンピューターに完敗してから
今まで以上に凄まじい執念で
コンピューター将棋の研究に打ち込み
自らの思考すらも
コンピューターの様にしたほどの人です。
ソフトが考える『次の一手』との
整合率は全棋士トップの50%強
(2位は羽生さんで50%)
プロ棋士は概ね
45%以上の整合性があります。
羽生さんの打ち筋って
ソフトっぽいかと思いきや
(終盤はまるでソフトのようにミスは少ないです)
複雑な局面で
本当に人間の考え尽くす限界といった
物凄い人間臭い一手が多い。
それが正しいのか?正しくないのか?
指した本人すらわからない
というほどの一手を指したりもします。
(これが羽生マジックと呼ばれる)
とくに、
読み切れているか?どうか?
といった局面で
羽生さんは駒を指すときに
その右手が大きく震えるんですよね。
もちろんそれほどの1手ですから、
解説の方を含めて
AI将棋ソフトまでも含めて
だれの検討にもなかった一手となり、
周囲がざわざわとします。
(一般的に手が震えると羽生さんの勝ちです)
いまから
いくつかの局面を見てみます。
NHK杯、秒読みでの『8六銀』
数手前から続いた、手順の一手
(ものすごい手が震えていました)
他にも単純な詰み筋があった。
ということですが、
羽生さんが指したのは『8六銀』の手順
今まで見たすべての棋譜の中で
最高の衝撃と言えるほどの一着
ソフトにこの手順は指せません。
(数手前の思考段階で
もっとわかりやすい解答があるためです)
羽生さんだけの一手です。
これを観た時は震えました…
CPUが左脳
メモリは右脳
HDDは記憶
全く思考の次元が違う、違う生き物。
この人はモノをどうやって認識しているのか?
羽生さんは
奨励会時代から全棋士の中での有名人。
誰も見たことがない
誰も指すことができない
羽生さんだけの一手を指すからです。
と、
羽生さんの執筆した文献、動画や
セミナーでの講演内容など
調べまくったんですが
うん。本当に所作の美しい
礼節正しい普通の大人な方です。
(人間ってこんなに処理能力があるのかあと)
プロ棋士になってみたいとか
憧れたことのあるファンに
このくらい見せてもらいたいですよね。
そうすれば、
スパッと諦められる。
自分も12、3歳の頃、
千駄ヶ谷の将棋会館まで
プロ棋士に憧れて
週末に通ったことがあって
棋譜や戦略書も当時、
数百冊は記憶したかな
インターネットがない時代だから
本を読むしか手段がなかったんですよね。
(専門書がこれまた高い。)
米長さんの矢倉の戦略書とか
一冊3〜4000円くらいだった気がする。
だから、一日立ち読みとかね
最新の戦略を知るために
月刊誌の近代将棋、将棋世界、
週刊将棋は全て購読
(将棋会館には発売日前日に置いてあったなあ)
自宅付近の図書館や書店にあるものから
将棋会館にあるものまで
読み漁っていましたが
奨励会員が相手では全く敵いませんでした。
(羽生さんがプロ棋士になった頃です)
将棋の一般的な競技での段位と
プロ育成期間(奨励会)の段位は別の制度です。
目安として、
時代によって年齢制限などは変わりますが
日本将棋連盟HPでの評価によると
アマチュア競技で四段程度の実力者のうち
15歳以下で上位20%程度の子供達が
奨励会の6級に編入出来ます。
(当時のアマチュアは五段が最高位。)
中学生以下でアマチュア四段という実力だって
例外と言えるほどの実力者です。
奨励会は三段が上限の育成期間、
四段に昇段するとプロ棋士として登録されます。
神童と呼ばれるような子供達が
奨励会を受験しますが
入会後に6.5.4.3.2.1級.初.二段と昇級して
プロの三段まで到達する奨励会員は
奨励会入会者全体の15%
さらに、
三段から四段へと昇段して
C2クラスのプロ棋士として登録できるのは
30人強で開催される
奨励会三段リーグでの
成績上位者2名のみ。
(同段位者と18戦の対局をして、
13、4勝くらいが
四段へ昇段出来るボーダーライン。)
現在の三段リーグへの参加資格、
年齢制限は25歳なので
25歳までに四段に昇段出来ない場合は
奨励会退会となります。
(現在の三段リーグは年2回開催となっています。)
現在の規定では、
三段リーグ内で勝ち越している限り
次回の三段リーグへも参加可能。
という規定がありますが
奨励会に26歳以上の棋士は一人もいません。
幼稚園児、小学生の段階で
選ばれた聡明な頭脳の持ち主から
プロの四段に昇段、
晴れてプロ棋士になれる人は
奨励会受験者全体の約2%。
(狭い!)
同世代の中学受験の合格率とか
そういう倍率じゃないですね…。
小学生の段階で
アマチュアの四、五段に
なることが非常に困難な上に
そこから受験を志す人たちがいて
さらにその受験者の中から2%。
(プロ棋士って凄い。)
トッププロ棋士への質問で
人生を将棋に捧げて
どのくらい将棋というものがわかりましたか?
という質問があって、
その回答を集めてみたところ2〜3%、
5%もわかっていないという
回答結果となっています。
それはそうかもしれません。
何しろ、
これだけの頭脳が集まって研究を続けた上に
現代のコンピューター技術を持ってしても
まず、初手に何をすれば自分が有利なのか?
という一手目が
解明されていません。
(かなり話題が脱線してすみません。)
そういえば、
羽生さんは今でも研究にパソコンを
あまり使っていないそうです。
だからこそ!といった発想が見られるわけで
さて
2番めの局面はこれ、
『6六銀』
うん。羽生マジックです。
そしてこちらが問題、
3番目の局面
ここに至るまでの構想が
本当にソフトのそれというわけです。
(2016年10月3日 A級順位戦 三浦弘行九段vs渡辺 明竜王)
10月20日に公表されましたが、
今回の『ソフト指し問題』を提言したのは
渡辺明竜王です。
ファンの間では有名ですが、
渡辺さんは公然と三浦さんを
批判するほど仲が良くありません。
(批判内容はとても的を得ていて、
公然とでなければ支持多数とも言えますが)
これによって
三浦弘行九段は竜王戦への出場取消
決定戦を争った丸山忠久九段が
竜王位決定戦へと出場することになりました。
丸山忠久九段のコメント
「発端から経緯に至るまで
(連盟の対応は)疑問だらけです。」とし、
一致率を処分の根拠と
していることについても触れ
「僕はコンピューターに支配される
世界なんてまっぴらごめんです。」
と強い口調で言っていた。
将棋の歴史において
史上初のタイトル棋戦での挑戦者交代
そして行われた
2016年10月15日、第29期竜王戦第一局
渡辺明竜王vs丸山忠久九段
先日、今回の事件において
最終的な引き金となった
順位戦の局面と見比べてみましょう
渡辺明竜王vs三浦弘行九段
そう、
端歩以外はすべて一致しています。
(将棋の序盤は
お互いの戦略研究を競い合う戦いなので
こういう局面は良くあるのですが。)
ここでの次の一手が、
前回の順位戦で渡辺竜王は
『4四歩』 この局は渡辺竜王の負け
さて、今回の一手は
『4二角』 この局は渡辺竜王の勝ち
うーん、
どうなんでしょう。
あまり、どこにも書かれてませんが
『4二角』は
三浦弘行九段が利用していたとされる
将棋ソフト『技巧』『激指』の推奨手です。
(この辺に何か見えない意図を感じる)
将棋を指す方なら違和感があるかと思いますが
この自陣の角。
まず、人間が考えて指せる手ではありません。
まさにソフトの一手。
(渡辺さんは前回この手を選んでいません。)
今回の問題となった、
三浦さんの中盤からの指し筋よりも
ソフト指し。じゃないでしょうか?
渡辺さん、
三浦さんにあれだけの仕打ちを強いて
『4二角』
渡辺さんは
昔からPCでの将棋研究が盛んな方ですが、
現役のタイトルホルダーも
激指で研究して指してるわけですよ。
事前にソフトで勉強するか?
その場でスマホで再確認するか?
どっちにしたって、
これじゃソフト指しと一緒じゃないですか。
問題の局面再現を選んだ
丸山さんの気骨が眩しいですよ。
余談ですが、
第29期(今期)竜王戦の賞金は
勝者4320万円
敗者1590万円です。
(現竜王位はどちらの場合でも
600万円の対局料が上乗せされます。)
挑戦者決定戦(3番勝負)は
一局の対局ごとに双方
440万円が支給されます。
その他に勝ち進んでくる過程での
対局料も他棋戦より高額であり
将棋界最大の高額賞金を誇る
トーナメント方式の棋戦です。
(名人戦はリーグ形式。順位戦と呼ばれ、
実績に応じてリーグが異なり
試合数が平等に割り振られます。
A級リーグ優勝者が名人挑戦権を獲得)
多少はプログラミングのわかる
将棋ファンとして
関連文献を読み漁った上での
最新AI将棋ソフトへの認識はというと…
・ソフトの将棋は大局観というよりも
計算のロジックによるもので、
実益を考慮するバランスが強すぎる場合がある。
(たとえば評価の難しい選択手がある場合、
駒を取る。成るなど優先順位の変更が人っぽくない)
・中盤から一気に間違うことなく
細い攻めをつないで勝ち切ることが多い。
(不安や恐怖がなく、躊躇がないので
負けるかもしれないという恐怖を感じる人間よりも
早い段階から戦況を読み切り
負けないという確信を元に逆算行動ができる。
処理能力を活かした先手を突く手順が多くなる)
・人間同士が持つ経緯や環境といった
駆け引きがないので、
序盤は適当と言えるほどマイペースで
人間の方が勝っていることがほとんど。
(読み筋の減る局地戦での強さは
もうすでに到底人間の及ぶ範囲ではありません)
・一手のタメがない。
(今後の付き合いや相手の感情を考慮しないので
グウの音を言える時間をくれない。)
ドワンゴ主催の
『第2期叡王戦』現在進行中ですが
そう、
数年前に一億円の対局料としても
実現できなかった
羽生善治vsコンピューター
今回の『第2期叡王戦』
羽生さんがエントリーしているんです。
(2017年の最強コンピューターへの挑戦者は
羽生さんを倒して優勝した
佐藤天彦名人(29歳)に決定しました!)
佐藤天彦名人は
知名度こそ羽生さんには遠く及びませんが
現役棋士の強さを示す指標となる
将棋レーティングシステムでは
羽生さんよりもレーティングが高い
現在第一位の実力者。
2016、7年の将棋界で最強の棋士です。
ついに、現役の名人位
現役最強棋士と最強のコンピューターの対局が
行われます。
(2017年上旬開催で日程は決まっていません。)
米長邦雄先生が
棋界の威信をかけて
対局したあのときの『電王戦』
2012年1月14日
【第1回将棋電王戦】
米長邦雄永世棋聖 vs ボンクラーズ PV
現役引退から10年。
御年67歳の米長会長が自ら対局
(後日談ですが、ソフトの貸出を受けて
10局指したところ10連敗。
人生最後の公式対局に
勝ち目の薄い戦いを挑んだということです。)
2013年4月20日
【第2回将棋電王戦】PV
第4局 塚田泰明九段vsPuellaα4(ボンクラーズ)
2012年12月18日に永眠した、
米長会長の弔いに挑む
魂の激闘、感動です。
温厚な塚田先生が
今回の出場を決めた理由は、
あれだけ熱心に研究していた
故米長先生が敗れたのが悔しくて
米長さんの無念を晴らしたい。
ですからね
(解説の木村八段がかなり茶化してますが、
終局直後からは
塚田先生の終局後の涙で皆さん無言です。)
この段階で人間がコンピューターに
敵わないことは
みんながわかっていたんです。
【2013年電王戦FINAL】
では、
コンピューター2勝・人類3勝
として棋士が勝ち越しましたが、
この時の特別ルールとして
・ハードウェアを限定
(これは2012〜13年、コンピューター関連の
技術進化が凄まじく
あまり大きな制限とはならなかった。)
・対戦相手にソフトを貸出
3ヶ月の貸出期間中に修正点が
見つかったとしても
プログラムを変更することは出来ない。
(2対2で迎えた最終戦の結末に起因します)
そんな対局を観て思うことは、
ソフト開発者にとっては
その一局は
改良を加えて進化させていく
過程での出来事。
その開発は将棋に
限っているわけではありません。
棋士は
一般的に学生時代からのすべてを
将棋に掛けた人生
人生を賭けた一局なわけです。
電王戦が生まれたキッカケについて語る
将棋名人400年祭記念
ミニ講演会 米長邦雄永世棋聖
業界の先を見据えた
シビアな交渉だったんでしょうね。
(会話の途中で、佐藤康光新会長の
真面目な人柄について触れています。)
複数年の契約期間、
制限、対局料の交渉
この頃につくられた
コンピューターとの対局料リストで
プロ棋士への対局料は
羽生善治さんは7億780万円
米長会長は1000万円
&今後の将棋への発展寄与が条件
(協会への協賛を願うということです)
そうやって対局相手は
米長会長に決まったそうです。
米長会長はこの対局に敗戦後
ほどなくして永眠されました。
将棋ファンの間では
ネテロ会長と呼ばれて
さらなる尊敬を集めることになります。
研究段階での人間の勝率は10%以下、
事前段階でコンピューターに
敵わないことがわかっているのに
笑顔で明るく、毅然とした態度で
将棋界の発展のために
誰も闘えない相手に挑んだという
その将棋界も含めた
米長会長の生き様が
大人気の漫画ハンター✖️ハンターの
ストーリーに酷似していて
ネテロ会長に非常に良く似ていることから
そう呼ばれるようになりました。
本当にありがとうございます。
これからも棋士が
人間が持つ可能性に挑戦する姿を
見守って応援していきます。